大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)83号 判決

一 特許庁における本件審査、審判手続の経緯、本願実用新案の要旨および本件審決の理由の要旨についての請求原因第一項ないし第三項の事実は、当事者間に争いがない。

二 右争いのない本願実用新案の要旨は、別紙「図面に示すように、冷蔵庫主体(2)の頂部に調理台に供しうる平盆状の頂板(1)を定着し、該板の正面後端部には、山型をなす取付用突部(4)を形成し、その前面傾斜部にコントロールパネル(3)を附設し、該パネルにパイロツトランプ(5)、タイマー(6)および前記調理台に供しうる平盆状の頂板(1)を照らす照明灯(7)、庫内温度指示計(8)、自動温度調整器用ノブ(9)、電源コンセント(10)等を集中的に配設して成る電気冷蔵庫の構造」にあるところ、成立に争いのない甲第七号証(本願実用新案の実用新案公報)によれば、(一)本願実用新案出願当時の傾向として、特に巨大でない家庭用電気冷蔵庫については、その高さは流し台、ガスレンジ等の厨房器具の高さに統一され、その頂部が平盆状に形成され、これを物置台、調理台に兼用(この頂部を調理台に使用することについては、原告も自認する。)せしめて設置場所例えば台所の空間を有効に使用することが行われていたこと、(二)本願実用新案は、右のように構成された家庭用電気冷蔵庫において、その頂部正面後端部に、コントロールパネル部を突設し(すなわち、山型の取付用突起部を形成し、その前面傾斜部にコントロールパネルを附設する。)、該パネル部に、庫内温度指示計、自動温度調整器用ノブ、タイマー、電源コンセント、パイロツトランプ、照明器具等を集中的に並設し、もつて、管理および使用に便利な冷蔵庫の構造を得ようとしたものであること、(三)上述の構造、配置によれば、(1)パネルに配設された庫内温度指示計により、外部から庫内温度を常時監視しうるとともに、(2)必要に応じ自動温度調整器用ノブを操作して、いちいち冷蔵庫の扉を開くことなく、したがつて熱損失なく、冷蔵状態を管理しえ、また、(3)タイマーにより、例えば頂板上に載置されかつ電源コンセントより饋電されるアイスクリームフリーザー、ミキサーその他の電気厨房器具の作動を、自動的に管理しえ、さらに、(4)パイロツトランプにより、不慮の停電をただちに認知しうるとともに、(5)照明灯により、設置場所が暗くても容易にパネル面を操作しうるとの作用効果を収めるものであることが認められる。すなわち、本願実用新案は、その出願当時に行われていた、家庭用電気冷蔵庫の平盆状頂部の調理台、物置台兼用および冷蔵庫設置場所の有効な使用を前提としたうえで、その頂部正面後端部にコントロールパネル部を突設し、かつ、このパネル部に冷蔵庫の有効な使用管理に必要な諸計器、コンセント、照明灯類を集中的に配設して、前記の作用効果を収めたものである。

一方、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例の実用新案公報)によれば、第一引用例の実用新案公報は、本願実用新案の出願日(昭和三四年一〇月一五日)前の日である昭和三四年九月一四日出願公告された実用新案についてのものであるところ、同公報には、電気冷蔵庫において、冷蔵庫本体の上部に載置した台盆の後方に保持台を設け、保持台の前面に、ミキサー、電熱器具等の各種電気器具を接続しうる電源接続コンセントを装設したものが示されていること、また、成立に争いのない甲第九号証の三、四、同第一〇号証の三(第二引用例刊行物とその受入証明書および第三引用例刊行物)によれば、第二および第三引用例刊行物は、ともに本願実用新案の出願日前である昭和三三年中に国内に頒布されたものであるところ、これらには、いずれも、電気レンジに関してではあるが、その平坦な頂部の正面後端部に、本願実用新案におけるとほぼ同型のコントロールパネル部を突設し、かつ、このパネル部に電気レンジの有効な使用、管理に必要な諸計器類等を集中的に配設したものが示されていることが認められる。

本願実用新案を第一、第二および第三引用例と対比し、かつ、他方において、流し台、レンジ等が、厨房器具として家庭用電気冷蔵庫とともに、近接した場所に配置され、関連する目的のために使用され、しかも前示認定により明らかなとおり、本願実用新案出願前から、高さの統一をはかるなど、たがいに形状、構成等について、合理的関連づけが行われる傾向にあつたこと、本願実用新案のコントロールパネル部の収める前示認定の作用効果は、広く知られた計器、コンセント、照明灯類をパネル部に集中することによりそれらの各個がもつ作用効果を単にそこで収めるにすぎないし、冷蔵庫の扉を開かずそのまま外部から庫内の状態を監視し管理でき不必要な熱損失がないとの点も、外部に設けた右パネル部への計器類の集中による当然の結果に過ぎないことを考え合わせると、第二および第三引用例における電気レンジのコントロールパネル部についての前示構想を第一引用例の電気冷蔵庫に転用し、このコントロールパネル部に附設すべき諸計器、コンセント、照明灯類を、電気冷蔵の用途に即応し、本願実用新案におけるように、適宜取捨し、集中的に並設し、これにより前示認定のような作用効果を収めることは、当業者の容易に想到しうることと認めるのが相当である。原告は、電気レンジにおいては、調整つまみおよび計器類等をレンジの外部のパネルに取り付けることが、レンジの機能上当然に決定づけられているのに対し、電気冷蔵庫においては、調整つまみおよび計器類等は、従来庫内に取り付けられていたものであるから、電気冷蔵庫において、本願実用新案のようにこれらを庫外のパネル部に集中的に設けることは、引用例から容易に推考しうるものではないと主張する。しかしながら、本願実用新案は、前示のとおり、家庭用電気冷蔵庫に関し、その管理および使用上の利便を得ようとするものであり、この目的を達するために、冷蔵庫の頂部に定着した頂板の正面後端部にコントロールパネル部を突設し、そのパネル部に、庫内温度指示計、自動温度調整器用ノブ、タイマー、電源コンセント、パイロツトランプ、照明灯等を集中的に並設するとの具体的構造を採用したものであるが、家庭用電気冷蔵庫において、外部からそのままその作動状態を監視し管理しうる方が、冷蔵庫の扉を開き内部からこれを行うより便利であることは、いうまでもないところである。この外部から管理ができるようにするとの一般的構想をいかに技術上具現するかについては、冷蔵庫の内部状態を外部に取り出す構造その他いろいろの部面についての考案がありうるであろうが、本願実用新案においては、右の一般的構想を、前示のとおり、単に計器、コンセント、照明灯類を並設したコントロールパネル部を冷蔵庫の外部に設けることにより具現し、この点に考案が存するとなすにとどまるものであるから、電気レンジが加熱状態の管理のためのものであり、電気冷蔵庫が冷却状態の管理のためのものであるとの差異があるとしても、第二および第三引用例のコントロールパネル部が外部からその熱管理機能を集中的に果そうというものである以上、これを採つてもつて、右の点についての考案力の存在を否定する判断の資料とするに少しも妨げがないというべきであり、原告の右主張は、とうてい採用できない。成立に争いのない甲第一五号証の一ないし六および同第一六号証の一、二に示されるように、本願実用新案出願前において、電気冷蔵庫の計器類が庫内に取り付けられていたとしても、そのような事実は、以上の判断にいささかの消長を及ぼしうべきものではなく、他にこれを左右するに足りる証拠資料はない。

三 右のとおりである以上、本願実用新案をもつて第一、第二および第三引用例から当業者の容易に考えうる程度のものとした本件審決には、原告主張のような違法はなく、したがつて、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がない。

〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。

本願実用新案の電気冷蔵庫要部の正面図、右側面図および断面図

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!